トムは真夜中の庭で

思い出のマーニーの源流の一つとして読んだ。時を越えた交流という形式は共通している両作だが、描かれているテーマは若干異なる。


原作マーニーの場合、思春期少女の孤立(マーニーとの出会い)、その解消(リンゼイ一家との交流)、そして自己の確立(マーニーの再発見)という複雑なプロセスを踏みつつ、アンナとマーニーの双方の家族が許されるという物語であり、時間を越えることそのものにはあまり主眼が置かれていない。
それに対してトムの場合、時間とは何であるかという抽象的な問いが、作品の中心的なテーマとして掲げられる。子供にも理解できるよう、テーマは噛み砕かれ平易に描かれてはいるものの、その問いが単に知識で片付くようなものではなく、人生全体を貫く普遍的な問いであるということからは逸れない。それ故に、子供騙しではない深みのある物語になっている。
マーニーの場合、思春期特有の孤立感の経験(またはその経験を思い出すこと)、もしくはそのような子供を持ったことが読解の大前提となる。子供の側からの視点が絶対的に必要なのだ。
しかしトムの場合は、マーニーよりも年少の子供を対象とした内容ながら、上述したような理由により、かつて子供だった大人の視点から楽しむことが出来る物語になっている。




うーん、こうしてみると、マーニーよりトムの方が幅広い層に訴えかけるには向いていたんじゃなかろうか。まあ、トムの場合は映像化したときマーニー以上に地味になるだろうという大きな欠点がある(宮崎駿ならどうにかしてしまいそうだが……)ので、致し方ないかなあとも思うが。