伊藤計劃「ハーモニー」読了。




舞台設定は面白そうだった。しかしながらそれが内容の掘り下げに上手く寄与できていない。
虐殺器官と同じで、作品の最もコアな着想がマクガフィンにしか見えないことを良しとするかどうかで評価がまったく変わる。
オーソドックスな筋立ての娯楽小説として読む分には大変面白いのだが、それ以上を求めると厳しい。


個人的には、本作において重要な概念であるはずの「合理的」を説明する言葉が指数関数くらいしかなかったことに一番納得できない。
ある行動を合理的かどうか判断するには何らかの目的や価値判断が絶対に必要なので、その目的なり価値判断をどこまでも遡っていったらどうなるのか、という話はさすがに押さえておいて欲しかった。
「合理的」であることを保証するものが、生物の本能なのか、生物の本能であると考えられているもの(遺伝子を残すことなど)なのか、老人達の独善的な意思なのか、ミァハの意思なのか、その時代に正しいと思われている思想なのか、それともそれ以外の何かなのか。
そこがあやふやなままなので、
合理性によって意思を制御しようとすることが何を意味するのかさっぱり分からないし、
実際ラストの状態がどういう状態なのかもさっぱり分からないし、
合理的になったとしても自殺が減るかどうかは前述した目的次第だよなあとしか思えないし、
何かフワフワとしたそれっぽい話を読んだな、という読後感しか得られなかった。